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川上昌子『増補改訂版 都市高齢者の実態』学文社、2003年4月

本書は、1997年に淑徳大学社会学部研究叢書『都市高齢者の実態』として刊行したものに、主に序章と終章を加筆して、日本女子大学大学院人間生活研究科において博士号の審査を受けたものである。博士論文のタイトルは「80年代都市高齢者の生活条件に関する実証研究」である。改訂版として再版するに当たり、タイトルは以前通りとし、副題を「N市高齢者の生活条件と介護問題に関する実証研究」から、「社会福祉学としての考察」に改めている。初版も社会福祉学としての考察を意図したものであったが、考察は不十分であった。その点を補ったのが改訂版であり、著者の博士論文である「80年代都市高齢者の生活条件に関する実証研究」であると著者は述べている。
 本書の意義は、80年代という高齢者福祉の転換期における包括的な実証研究である点である。介護保険登場前の前提とされている「介護のニーズの一般化、多様化」とは、具体的にどのような内容のものと理解すべきかについて述べている。種々の高齢者問題が、介護保険により実際にどのように問題解決できるか、あるいはできないか、80年代の実態の把握は、その後の変化は把握し測定していく上において、ある意味で継続的に観察していくための歴史的基点としての「定点」を提供すると考えられる。本書は、歴史的「定点」としての意義を果たしている著作であるといえよう。
 さて本書は、都市高齢者の一般的な生活実態と要介護の側面の実態について述べたものである。習志野市において、1986年から1990年までの間に市全域にわたる基礎調査と病弱老人調査、老人病院入院者調査、特別養護老人ホーム入所者調査を実施する機会を与えられた著者が、それらの調査結果をまとめたものである。
本書は、4つの調査から構成されている。第一の高齢者の習志野市全域調査は、都市高齢者の生活実態と生活条件を明らかにするために実施された調査である。調査対象は、習志野市全域に居住する60歳以上の高齢者を含む世帯である。調査対象の選定は、老人福祉課に常備されている、60歳以上の高齢者名が町ごとにリストアップされている昭和61年4月1日現在の高齢者名簿に基づいて行われた。高齢者の世帯代表者を定め、その年齢により60歳~74歳と、75歳以上の二つのグループにわけ、60歳~74歳は5分の1、75歳以上は2分の1を目安に、無作為に抽出し対象とした。高齢者の代表者とは、夫婦であれば夫を、高齢者が同一世帯の二世代であれば、年長の世代のものを原則として代表としている。60歳以上の高齢者を含む全世帯9,238世帯のうち1,996世帯21.6%を調査できたことになる。調査は、世帯表と個人票の二種類を用意し、各世帯を訪問して面接調査により回答を得ている。面接調査にあたったのは、淑徳大学で社会福祉学を専攻する学生および千葉大学看護学部教員、淑徳大学社会福祉学部教員、そして習志野市役所「老人実態調査プロジェクトチーム」の職員である。調査期間は、昭和61年7月21日から8月11日までを中心に、さらに回収の悪い地域については10月に追加調査を実施している。
ほかの3つの調査は、1986年に実施した「在宅病弱老人調査」であり、分析対象ケースは50ケースであった。老人病院、特別養護老人ホームにみる介護の社会化に関する調査結果は、習志野市に所在する老人病院1か所で行った調査票調査であり、患者の担当看護婦の協力も得ながら、事務局で捉えている以上の個人的情報も提供してもらえている。特別養護老人ホーム調査は、習志野市には対象のホームがないことから、他市との共同の特別養護老人ホームや他の市町村の社会福祉法人のベッドを確保している、それらの入所措置者について、詳細な家族に関する情報や本人の身体状況について、ケース台帳の内容を調査票に転記してもらう形で、記述してもらったものである。老人病院の調査数はちょうど100であり、特別養護老人ホームの調査数は98であった。調査を実施したのは1990年であり、医療改革が進められているときであり老人病院に関していわゆる「社会的入院」がもっとも問題とされていた時期であった。
本書の終章では、4つの調査から得られた都市高齢者の生活条件に関する考察と研究動機に関して得られた示唆が7点にわたって述べられている。
第一に、経済面における子ども世帯との未分化状態、つまり扶養の必要と子ども家計への統合について指摘し、さらに、生活条件の格差に関する実態を示した。高齢者の基本的といえる生活条件は、年金、同居、持家であり、個々の高齢者の生活のあり方はそれらいかんに個別に規定されている。生活条件としてもっとも多いのは老人世代の収入の少なさを同居でカバーしている形であった。未分化状態が最も多いことが政策のあり方を考える上で基本となる重要な点であることが強調されている。
第二に、要介護者の問題についてであるが、在宅の寝たきり老人も、特養老人ホームの入所者も、老人病院、老人保険施設の入院者も、皆同じような様子をしており、違いはないといわれることをしばしば耳にする。この調査からわかったことは、一般にもっとも好ましいとされるところの家族に依存する「在宅」生活が、ともすると要介護者を作り出すメカニズムとなりがちであることと、不十分な生活条件に規定されるところの不十分な介護の実態である。在宅介護が不十分な生活条件の下で行われていることに注目する必要が強調されている。
第三に、在宅から外に出た老人はどうか。特別養護老人ホームの入所者をみれば、入所前の家族構成そのものは子供との同居世帯が6割もあった。しかし、同居世帯員に身体的、精神的、経済的に問題をもつ者が多く、いわゆる多問題家族が多くみられている。つまり、それらのために老人を含みこんだ未分化状態を維持できない世帯ということができ、「絶対的窮状」とも表現できる。著者はそれを「家族崩壊」であり、単身化して入所となる、と指摘している。このような未分化状態と「絶対的窮状」とが相互に関連しあっていることを指摘している。
第四に、何度も繰り返し指摘するように、在宅の平均的状態も決して満足できる状態とはいえないが、それでも両者の生活条件の間の格差は大きいといえる。全体として経済的な生活条件の違い、つまり階層性があることを明示すことができた、と著者は指摘する。そして生活の総体としての階層性の存在も介護問題まで含めて、不十分ながら示すことができたと考えている。現状としての老人病院や特別養護老人ホームは、さらにおそらくそこに至る以前の状況まで含めてミニマムが確保されているとはいえまい。老人病院入院者について指摘できることは、家族の条件がより不十分な者の場合に、在宅で介護できなくなる限界点が早めにやってきているということである。
第五に、以上の状況は、日本の中で相対的にかなり恵まれている一自治体における高齢者の実態である。依存できる家族があり、持家があり、同居できている者が多いが、それは今日では恵まれているといえる条件であり、多分、それらは他人の誇示できることなのである。今日、高齢者生活の分化、自立化は芽生えてきている。経済面での自立化が夫婦健在である類型において進んでいるように、条件さえあれば自立化は進むであろう。また、今後、意識の面では自立化は急速に進むかもしれない。しかし、それに伴う諸条件が確保されず、家族に依存しなければならいないとすると、家族内の関係の軋轢は、さらに大きくなることであろう。だが総じていえば、経済生活と介護の両面において調査時点において未分化の状態にあるというのが調査分析からの結論である。
第六に、新ゴールドプランおよび介護保険の導入により1980年代に捉えた家族依存とい老後生活の基本的あり方がどう変容するかである。家族依存からの脱却のためにはホームヘルパー派遣事業が単身世帯の地域での老後の生活を最後まで支えうる量と内容、組織であるかどうかが重要な点であろう。加えて、収入が高齢者のみ世帯の生活を維持できるかである。
第七に、以上を踏まえて、三浦文夫が「貨幣的ニード」と「非貨幣的ニード」に分離したことについて言及している。第1に、介護は家事労働であることを著者は述べている。家計が豊かであればサービスを外部から購入することも可能だが、そうでなければ家族の中で担うしかない。本書はその実態を述べている。介護ニードは老人の身体状況にだけ規定されるのではなく、家族構成や収入、住宅といった経済的要素にも規定されるのである。第2に、家族構成も老人単身も老人夫婦といった核家族ばかりにではなく、むしろ同居世帯の方が多く、それだけでなく晩年において追加的に同居へと移行していく傾向がみられることを指摘している。以上を考えるなら、介護ニードは誰にとっても等しいニードとはいえないことになる。従来の応能負担から介護保険による応益負担への変更が、より所得の低い者の利用抑制として作用していることは指摘されるところである。介護保険は誰でもが保険料を負担し、だから誰でもが権利として利用でき「選択」できる制度、つまり利用の権利としては「普遍主義」と言えても実際の利用においては不均等とならざるを得ない。したがって、目下のサービス利用計画状況においては「在宅」を、つまり日本でのその意味で依然として家族依存を前提としているということであるが、その点が現実にどのように克服されていくのかの検証は今後必要であろうと著者は考えている。
医療サービスが普遍化するためには、医療保障制度の確立を必要とした。それと同じ意味において高齢期生活保障の観点から、家事援助サービス、介護サービスの「普遍主義的社会福祉体系」の確立が望まれることはいうまでもない。だがそのためには同時に年金や住宅保障についても老後生活の安定のためには「普遍主義的社会福祉体系」が並列的に確立さえなければならないことを著者は主張している。
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